一般財団法人あままる基金(以下、あままる基金)の特徴は、単にお金を届けることではない。地域資源を活用して何かを始めようとする人々の思いに寄り添い、事業計画を構築していく段階から経営的支援として伴走し、必要であれば地域外の資源へも繋いで支えていく。そんな仕組みを目指している。
今回のインタビューでは、認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパン(以下、PWJ)の國田 博史 (くにた ひろし) 国内事業部長に、基金の仕組みの意図や、今後の連携の可能性についても伺った。

補助金ではなく、“返していく資金”にした理由
あままる基金では、助成金ではなく、返済を前提とした仕組みを取り入れている。それは単なる制度設計上の工夫ではなく、「どういう挑戦を応援したいか」という思想にもつながっている。
國田さんは、支援したいのは「お金があるからやる人」ではなく、「これをやりたい」という思いが先にある人だと話す。
「お金があるからこれをしたい、ではなく、『これをしたい』が先にあって、そこにお金のサポートがあればできるのにな、という方を支援したいと思ったんです」
借りてでもやりたい。
そのくらいの覚悟と意欲を持った人が地域にいること自体が、事業の強さ、ひいては地域のチカラへとつながる。もちろん、すべてが順調にいくわけではない。けれど、うまくいった事業から資金が返ってくれば、それがまた地域へ還元して、次の挑戦を育てる力になる。
「うまくいった時にはそのお金が返ってきて、それが次の事業を育てる循環ができるわけで、その形になれば素晴らしいと思います」
“支援して終わり”ではなく、“次の挑戦へと繋いでいく”。この循環性は、あままる基金の大きな特徴の一つだ。
500万円以下に込めた小さな事業へのまなざし
あままる基金の支援上限は500万円。この規模感にも、海士町の事業環境を見据えた意図がある。
海士町にはすでに、より規模の大きい事業を対象とした別の基金がある。
一方で、島には個人事業という形で活動している人や、これから小さく起業しようとする人も多い。そうした層には、既存の仕組みでは届きにくい部分もある。
「個人事業という形で事業を展開している方が多くいらっしゃいますし、新しく島に入ってきた若い方が起業しようと思った時も、最初から法人化するとは限りません」
だからこそ、あままる基金は、より小さな規模の事業や、これから形になっていく挑戦を支える役割を担う。既存の制度と競合するのではなく、地域の中で届いていない部分をカバーする。そうした役割分担が意識されている。
「既存の基金とは違ったターゲットとして、個人事業主やより規模の小さいところもサポートできるようにと考えています」

伴走支援は、地域の中と外をつなぐこと
あままる基金のもう一つの柱は伴走支援だ。
事業計画をつくる段階から関わり、事業開始後も必要に応じて相談や助言を続けていく。この考え方の背景には、広島県神石高原町での「神石高原地域創造チャレンジ基金」の実践もある。
2017年に始まったこの基金では、採択後も継続的に伴走し、返ってきた資金を再投資する循環をつくってきた。國田さんは、その中で「民間の資金や経営の知見が入ることで地域が変わっていく姿」を見てきたと話す。
そして海士町でも、伴走支援の意味は大きい。ただし、その伴走はアドバイスをするだけではない。地域の文脈を理解し、時には外の資源ともつなぐことまで含まれている。
支援先と連携先がつながる。海士物産の事例から見えること
あままる基金の第一号支援案件である、有限会社海士物産(以下、海士物産)のチャレンジは、「未利用魚を活用したペットフード事業」だ。
この事業では、PWJが運営するピースワンコ事業との親和性が高い。ピースワンコでは約2000頭の犬を飼育しており、例えば、フードの試用先としても、また全国の譲渡センターなどの拠点は、将来的な販路としても考えられる。
「このペットフードの場合は、我々が使い勝手だったり、犬が食べる・食べないという点で市場調査の役割も果たせますし、商品ができてきた時に支援者を含めたマーケットとしての機能もわずかながら果たせるかなと思っています」
この関係性は、単なる資金提供者と支援先というだけではない。
資金的なパートナーであり、事業の連携先にもなりうる。あままる基金が目指す伴走支援の面白さは、まさにここにある。
一方で、課題も率直に語られた。未利用魚を加熱しただけのフードは、素材そのものの良さが強みである反面、匂いや見た目、パッケージなど、一般販売に向けては工夫が必要になる。
「混ざり気なしの本物、というのが一番の売りだと思うんですけれども、一方で匂いや見た目など、課題もあります」
だからこそ、すぐに成果を求めるのではなく、実証や改善を重ねながら商品化を支える伴走が重要になる。

業種を絞らず、小さな挑戦の数を増やしていく
今後、あままる基金がどんな事業を支えていけるとよいか。
國田さんは、特定の業種に絞る必要はないと話す。
実際、最近の海士町では、「大人の島留学」をきっかけに期間終了後も、島内へ残って田畑で精を出す人、カフェやレストランで働く人、地域に根ざした食の取り組みを始める人など、新しい動きが見えている。
その中でも、自分の無理のない範囲で小さく始める人たちの存在が印象的だったようだ。
「規模はそんなに大きいわけでもないし、自分の無理のない範囲で始めたような形なんですけど、意欲を持った方がたくさんいるなと改めて感じました」
だからこそ、既存事業者だけでなく、新しく始める人たちにも基金が開かれていることが大切になる。
「何かが始まるというのは、その地域に足りないニーズがあるから始められることでもあると思うので、特定の業種に限定せずに支援ができたらいいのかなと思います」
5年後、10年後に向けて。もっと多くの人を巻き込む基金へ
國田さんが描く将来像は、PWJだけが支える基金ではない。
海士町に魅力を感じる人や企業、地域内外のサポーターが少しずつ増え、多様な関わりが生まれて、そしてまた多様な方々が支える仕組みにも期待している。多様性は、財源の多様化というだけでなく、多彩な繋がりの証でもある。
「海士町は、魅力を感じて自分も関わりたいと思ってくださる方が多い地域だと思うんです。多様な方を巻き込んでいくのがやりやすい地域でもあるし、基金としてもそういう方々をどんどん巻き込んでいって、PWJだけではない資金提供をしていただけるような組織になっていただきたいなと思います」
支援する人と、挑戦する人。
その両方が増えていくことで、地域の営みはより厚みを増していく。
あままる基金は、事業者を支える仕組みであると同時に、地域の応援者を増やしていく仕組みにもなりうる。

海士町から、他の地域へ
さらに興味深かったのは、この取り組みが将来的には他地域にも応用可能だと考えられていることだ。PWJにとって、新しい地域と関わる入口の一つは災害支援だという。被災地では2年、3年、5年と一定期間の支援はできても、その先まで見据えた自律的な復興には、地元の事業や生業を支える仕組みが必要になる。
「その先も含めて地域の自立的な発展や復興を考えると、こうした基金のようなものを通じて地元の方のビジネスを支援することが、被災地においても有効なのではないかなと思っています」
海士町で積み重ねる実践は、この島の中だけにとどまらない。
地域の人が主役となる小さな事業支援のモデルとして、これから他の地域にも示唆を与えていく可能性がある。
あままる基金がこれから育てていくのは、単なる資金の流れではない。
人の思いを起点に、小さな挑戦を支え、その挑戦がまた次の挑戦を支えていく循環そのものだ。
