地域の主役は、地域の人。國田博史さんに聞く”ピースウィンズ・ジャパンがあままる基金へ託した思い”

海士町では、大小さまざまな挑戦が日々生まれている。その一つひとつは決して大きな事業ではないかもしれないが、そうした小さな営みが重なり合って、地域の風景をつくっている。特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン(以下、PWJ)が、数年にわたり海士町への地域支援を行ってきた結果、そんな地域の挑戦を資金面と伴走支援の両面から支えるために、全額出損して一般財団法人あままる基金(以下、あままる基金)が立ち上げられた。


今回お話を伺ったのは、PWJの国内事業部長である國田博史(くにたひろし)さん。PWJがあままる基金に込めた思いや、海士町という地域へのまなざしについて聞いた。

「地域に何が必要かは、地域の人が一番よく知っている」

PWJは、国内外でさまざまな支援事業に取り組んでいる。自らがプレイヤーとなって実施する事業もある一方で、地域づくりや地域活性化の領域では、「地域の人が主体になること」を大切にしてきたという。

國田さんは、地域にとって本当に必要なことは、その土地に暮らす人たちが最もよく知っていると話す。

「地域にとって何が必要かは、そこに住んでいる人たちが一番よく知っているし、肌身で感じていることです。形にしていく時にも、その地域の様々な資源を活用していくことが、トータルで見た時には一番いい姿なんじゃないかなと思っています」

この考え方は、PWJが本部を置く広島県神石高原町での地域づくりにも通じている。海士町に関わる中でも、同じような可能性を感じてきたという。
島留学をきっかけに移り住んだ人、もともと島に暮らしてきた人、さまざまな世代や背景を持つ人たちが、それぞれの形で地域に関わっている。

「一つひとつの規模は大きくないんですけど、いろんな方がいろんなビジネスをやっていて、それが重なって一つの地域をつくっている。そういう地域だと思っています」

だからこそ、その重層的な地域の営みを生かすには、地域の挑戦を後押しする資金的・伴走的な支援が有効なのではないか。あままる基金には、そんな期待が込められている。


小さな挑戦の「最初の一歩」を支えたい

國田さんが繰り返し語っていたのは、スモールビジネスの立ち上がりにおいて「最初に背中を押すこと」の大切さだった。

何かを始めてみたい。けれど、事業にはリスクがある。
その最初の一歩を踏み出す時に、少し背中を押す存在があるかどうかは大きい。

「スモールビジネスは多様なニーズやアイデアから始まりますが、最初に背中を押すことがとても大事なんです。始めてみたいけど、やっぱりビジネスを始めるにはリスクがありますから」

海士町には、役場で働きながら別の活動にも関わるような「半官半X」的な生き方や、無理のない規模で自分らしい仕事を始める人たちの姿がある。
國田さんは、そうした地域に根ざした暮らし方や働き方そのものが、これからの日本にとって一つのモデルになりうると見ている。

「個人個人がそれぞれの関わり方で地域をつくっている。そういう生き方や暮らし方が、日本の他の地域にもモデルとして広がっていく可能性があるんじゃないかなと思うんです」

あままる基金を通じて、そうした挑戦がさらに促進されていくこと。それが、PWJが海士町に期待している未来の一つだ。

なぜ“別法人の財団”なのか

今回の取り組みでは、PWJの中の一事業としてではなく、独立した財団としてあままる基金が立ち上がっている。そこにも、はっきりとした意図がある。

一つは、金融や事業支援の専門性を外部の力とつなぎながら、より効果的な支援を行うため。
もう一つは、将来的にPWJ以外の人や組織も関わりやすい「箱」として育てていくためだ。

「我々も金融の専門ではないですし、より効果的な形で地域に価値をもたらしたいと思いました。いろんな関係する方々から資金も提供していただくし、人脈としてもアドバイスだったりノウハウの提供だったり、たくさんの方に関わっていただく箱として、財団があった方がいいだろうと思ったんです」

そして、もう一つの特徴は、単なる資金提供で終わらないこと。経営面も含めて伴走し、地域内外の知見やつながりを生かしながら支えていくことに、この基金の意義がある。

「お金を出して終わりじゃなくて、経営についてアドバイスをしていくところが大きな特徴です」

海士町にはすでに地域づくりの文脈があり、多くの挑戦が積み重なってきた。その中で、あままる基金もまた一つの推進役として、地域を盛り上げていく存在になってほしい。

國田さんはそう語る。


「地元で飲みながら話す」くらいの距離感で

印象的だったのは、地域支援に必要なのは制度や仕組みだけではない、という話だった。地域の文脈を理解し、人の思いや背景を知ること。そのためには、もっと生活に近い距離感が必要だと國田さんは言う。

「地元に行って、スナックで飲んで、たくさんの方と話す中で地域の皆さんの考えを知る。そうやって思いを深く理解した上で事業支援をしていくことがとても大事になると思います」

資金を出すことだけではなく、地域の中に入り込み、共に考えること。それはあままる基金がこれから大切にしていきたい姿勢でもある。

海士町への思い、そしてこれから挑戦する人へ

最後に、國田さんは海士町という地域への思いも率直に語ってくれた。

「海士町に行くと、皆さんすごく歓迎してくださるんですよね。誰に対しても外からの方を温かく迎え入れて、地域に関わってくれる人を大事にする風土がある。そういう皆さんからの愛を受けると、こちらも同じ気持ちになるというか、島のために何かしたいという気持ちになります」

そして、チャレンジを応援する風土そのものにも強く惹かれているという。

「チャレンジをすることに対して、みんなで背中を押していこうという気風があるのもとても嬉しいです。日本全体がいろんなチャレンジをしていかないと沈んでいってしまう時代だからこそ、その風土はとても大事だと思います」

インタビューの締めくくりに、これから挑戦しようとする人たちへのメッセージをもらった。

「この基金は、小さくても『これをやりたい』という気持ちを何より大事にしたいと思って立ち上がった基金です。ぜひ物怖じせずにアプローチしていただきたいですし、皆さんの意欲自体が地域の財産だと思っています。その種を育てて、花を咲かせていけたらと思います」

大きな事業だけが地域をつくるわけではない。

一人ひとりの「やってみたい」という思いこそが、地域の未来の種になる。
あままる基金は、その小さな種に寄り添い、育てていくための仕組みとして、これから歩みを重ねていく。